ランのタネは菌のご馳走


 ランのタネに菌が食指を伸ばすが、逆に、ランが菌を餌食にして発芽する。 そして、菌根を通じて成長し、開花し、果実をつくり、タネをまき散らす。 ランと菌との関係は、この繰り返しかのように言われる。 とくに、いわゆる腐生ランの場合は、発芽期だけではなく、生涯を通して菌のお世話になっている、 あるいは、菌を食い物にしているということになる。
これでは、ランは悪賢い奴で、菌はちょっとお人好しの騙され役だ。 しかし、菌のほうも騙されてばかりいるのか、疑問だ。

クマガイソウの群落は・・・

初め数株しかなかったものが、地下茎で増殖して群落となる。 初め数株しかなかったものが、地下茎で増殖して群落となる。  ランは極小のタネを無数まき散らす。 これが筋書き通り、菌を騙して発芽・成長したら、親株の周辺はランだらけになるはずだ。 ところが、群生するランは意外と少ない。
 例外的に、クマガイソウは数百数千という大きな群落を作る。 しかし、これはタネで増殖したのではなく、地下茎を伸ばして群れを拡大していったものだ (掘りあげて確かめたことはないが、そう言われている)。 このような群落は、地下茎が伸びる速度で範囲を拡げることはあっても、 10mも100mも離れた場所に子株が生え、新しい群落を作ることはあまり見ない。
 毎年花が咲き、実を付け、無数のタネを蒔いているのに、群落の周辺に子株が見られない。 無数(何百万?何千万?もっと?)のタネは、発芽していないことになる。 幸運な一粒のタネが、どこか別の場所で、発芽・成長する。そして、そこで新たな群落を作ることになろう。

仲良く喧嘩しな、菌とラン

 結論として、タネが菌を騙すのに成功する事例は、何億分の一でしかない。 残りは、菌に出会わなかったか、菌に喰われてしまったのだ。 ランが菌騙しに成功する事例より、少なく見積もっても、菌がランを餌食する結末のほうが多いと言えるのではないか。
 菌がランのタネに近づいてくるのは、勝ち戦の記憶が遺伝子に刻まれて残っているからだろう。 菌がランに騙されてばかりいては、両者の関係は長くは続かない。 もちろんランのほうも、多くの犠牲を払うことは承知の上で無数のタネを作っている。 全体としてはやはり「共生」という関係が成り立っているように思う。

2017/5/4

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