菌とランとの出会い --- 喰うか 喰われるか


 ランの種子はとにかく小さい。たくさん作って、風に乗せて飛ばす戦略だから、小さくならざるをいない。 だから、自力で発芽するだけの貯えが種子に含まれていない。
ムヨウランは葉はないのに、菌のお陰で花を咲かす。 ムヨウランは葉はないのに、菌のお陰で花を咲かす。 そこで、ラン菌の助けを必要とするのだが、その出会いが劇的である。

第一幕:菌がランに食指を

 ランの種子が風に運ばれて、そこらあたりにばらまかれる。 そこに菌が登場する。菌は美味そうな餌があると、 ランのタネに食指(菌糸)を伸ばし、侵入しようとする。 タネは、ちょっとだけ侵入を許す。

第二幕:ランが菌を返り討ちに

 ランのタネは菌に喰われてしまう前に、 自分の細胞に侵入してきた菌糸を消化して、逆に自分の養分にしてしまう。 こうして発芽に向けて、一歩前進する。 太り始めた太り始めた幼いランに、菌の食欲はますます旺盛となり、次々と菌糸を繰り出す。 その菌糸を、ランは餌食にしてしまう。

第三幕:菌はランの支配下に

 菌はランに侵入し、ランもそれを許し、結果として、ランの根と菌と合体した菌根ができる。 菌は菌糸を通じて、せっせと菌根に養分を運び、ランはそれを吸い上げて養分として成長する。 ランにとってはひじょうに都合の良い成功談であり、菌としては悲劇である。

 以上、参考書をもとに、ランと菌との戦いの模様を描いたわけだが、不正確かも知れないので、原文を一読されたい。 「蘭への招待(塚谷裕一著)P.74〜75」 蘭への招待(塚谷裕一著)P.74〜75

 そもそもの始まりは、蘭の種子が発芽する時である。 蘭の種子はひどく退化していて、イネのような胚乳もなければダイズのような貯蔵子葉もない。 それどころか、胚そのものが発達しておらず、極端な場合では、 単に数十から数百の細胞が固まって存在しているだけの微細なものである。 こうなると、自力で発芽することなどとうてい無理なので、 蘭の種子は風に舞って適当なところに落ち着き、水を吸うと、ちょっと一休みしている。 そこへ菌根菌(カビを想像してもらえば良い)が菌糸を伸ばしてきたとしよう。 菌根菌は、手頃なおかずがあったと思って、この蘭の種子に侵入する。 蘭の種子の方はというと、この菌にいったんやられるままになってみせる。 表面の細胞に菌糸が入り込むことを許すわけだ。
 ところがである。蘭の種子はここで特殊な能力を発揮し始める。 自分の細胞に侵入してきた菌糸を消化して、逆に自分の養分にしてしまうのである。 そしてそれを元手に、発芽のための発達を始める。 菌根菌の方は知恵があるわけではないから、手近なところに何だか太り始めた幼植物ができたことにだけ目を奪われて、 次々と菌糸を繰り出してしまう。 そうして、その度ごと最初でけ良い目を見、後は結局、蘭のえじきになることを繰り返すわけだ。 その結果、ついに蘭はこの菌根菌を自分の支配下において、根毛と同じ働きをさせるに至るのである。

2017/5/5

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