和名 ムカゴサイシン 零余子細辛 地下の球茎はヤマイモのムカゴに、葉はサイシンにたとえた。
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 つまり、葉っぱは、サイシン(ウマノスズクサ科)に似ていて、地下にはムカゴ(=球茎)がある、という訳だ。
 花の後に出てくる葉っぱを見れば、これがラン科植物だとは思わないだろう。 普通ランの葉は、線形〜披針形で葉脈は平行になって先端で一点に集中しています。 ことろが、本種は5角形で葉脈は網目状です(写真左:冬近くになって葉が枯れると葉脈が浮き出る)。

学名 Nervilia nipponica Makino
分布 本州(栃木県以南)、四国、九州、琉球列島、伊豆諸島。外国では、韓国済州島。
生態と形態 暖温帯の常緑広葉樹林やスギ林に生える。
地中に小さな球茎があり、4月にそこから花茎を伸ばし、先端に1つの花をつける。花期の高さは3〜10cmとなる。
花は半開きになり、平開することはない。花色は全体として褐色(まれに緑色)であるが、唇弁と側花弁は、白地に赤紫色の斑紋がはいる。 短期間の内に結実して、種をまき、その後すぐに花茎は消える。
葉は開花期にはなく、花が結実して種まきが始まるころになって、1枚の葉がでるが、これも11月ごろには消える。 葉は五角状心形で、地上数センチ高さで水平になる。  ▼ 花の形態をみる。



@=背萼片
A=側萼片
B=唇弁
C=側花弁
D=蕊柱
E=子房

花被片は、10oとほぼ同じ長さ。
唇弁は、中ほどで縊れ3裂するが、側裂片は小さく中央裂片は大きく目立つ。


花期 4〜7月。四国では5月上旬から。


花の季節 ・・・

春5月に地上に現れて、花を咲かす。

2012/5/30

県道から、集落へ登る山道の上に、ムカゴサイシンが群生している。狭いながらも、軽トラックなら行ける程の道であったが、今は部落はなくなり、通る人もない。降り積もった落ち葉が、ムカゴサイシンの住処となっている。

5月半ばごろから、花茎が地上に姿を現し、地上活動を開始する。
 5月下旬から開花し始め、6月上旬から結実期に入る。

花茎の先端に、1つの花をつける。花は半開きで、普通、大きく開くことはない。

2009/5/15

地上に出たばかりの姿。先端は槍のようで蕾の膨らみはまだない。


果実の季節 ・・・

5月下旬になると結実し、間も裂開して、タネを撒く。

2007/6/23

果実期。花は結実しても、散るのでもなく、落ちるのでもない。花被は萎んで残る。 だから、開花前の姿と勘違いしやすいが、子房が膨らんでいれば、それは蕾ではなく初期の果実である。

6/16

花が凋み、子房が膨らみを増している。

6/27

果実が裂けて、中のタネを飛ばし、ほとんど空になっている。この段階でも、花被片は萎んだ状態で、先端に残っている。


葉の季節 ・・・

5月中旬になると、タネ撒きをしている株の根元に、葉が芽を出し始める。すぐに展開して、冬に枯れるまでが葉の季節となる。 年末には葉も消え、翌年の5月までは地下で休眠期に入る。

6/17

 果実が裂けて、タネを飛ばしているころから、花茎の根元に、葉が出てくる。
 だから、開花した花と葉っぱを同時に見ることは不可能だ。

葉が、地上に現れて、展開するまでの過程を追ってみた。

7/15

花が咲いているときは、葉はない。花が終わる頃、入れ替わるように葉がでてくる。

8/5

葉は地面すれすれに平行になっている。

9/6

葉は、1枚で、形は五角状のハート形であるが、大きさや形には変化がある。

11/29

寒さが厳しくなる頃には、葉の葉緑素が抜けて(地下の球茎に吸収?)、やがて、地上からは姿を消す。
来年の5月までは、菌の助けをえて、地下で養分を蓄える。


ミドリムカゴサイシン(仮称)


 10人ぐらいのグループで二軒しかない山里から、いざこれから登ろういう時のこと。 そのうちの一軒の主人が出てきて、ぜひ案内したい所がある様子。
 そこで、植物調査という本来の目的に添ってまっすぐ山頂を目差す者と地元男性の誘惑で横道にそれる者と、 グループは二派に分かれて進むことになり、私は後者に加わりました。 もと生姜畑にムカゴサイシンがあった。ただしこの写真で見つけるのは不可能。 横道派は、足元の草を掻き分け掻き分け目的地に着いたのですが、期待していたほどではありませんでした。
 がしかし、そこでムカゴサイシンを見つけたのです。 昨年10月、ムカゴサイシンの葉っぱは写真に撮っていました。(このランは花と葉の時期が違う。) 今年は花をものにしようと1週間ほど前に、 何時間も車に乗って行ったのですが、影も形もなかった。その花がここで見つかったのです。
  恩人であるご主人の話では、ここは生姜畑だったそうです。 今は杉の植林ですが、竹の方が優勢になっています。先人が何百年もかけて切開き耕作してきた土地が、いまムカゴサイシンの住処になっています。
 山里の周りには至る所にこんな場所があり、そこには絶滅危惧種というランも生えています。 ランにとっては失地回復かもわかりませんが、ヒトの食料の将来は心配ないでしょうか。

2006/6/1


追記:その後、ムカゴサイシンの自生地はあちこちにあり、そんなに珍しいランではないことがわかってきました。
 自生地を探すのは、花の時よりも葉っぱが出ている時期の方が良いようです。

2009/1/11

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