オニノヤガラの品種? 変種? それとも別種?
シロテンマは オニノヤガラ の品種とする説が大勢ですが、これに対して別種とすべきだという主張もあります。シロテンマは、1939年にオニノヤガラの変種 Gastrodia elata var. pallens Kitag. として発表されました。
ところが、1956年に津山尚氏が「日本産オニノヤガラ属雑記(2)」の項目「アオテンマ及びシロテンマについて」の中で、 「小生はアオテンマと同様に品種級の学名を与える方がよいと思う」として Gastrodia elata Bl. forma pallens (Kitagawa) Tuyama と命名しました。
あえて品種とした理由はまったく記載されていません。それだけではなく、前の文に続いて「シロテンマはアオテンマと異なって、全体に小形貧弱で花数も少ないものが多い」と書いています。 左:ヒメテンマ、右:オニノヤガラ 左:ヒメテンマ、右:オニノヤガラ これは「オニノヤガラの単なる花の色違いではない」ということですから、品種とする結論とは矛盾します。
「オニノヤガラの中には、ときに全体が緑色になるアオテンマ forma viridis Makino や、 茎が短く、花とともに淡黄色のシロテンマ forma pallens Tuyama とよばれるものがある(日本の野生植物T)」とする通説は津山氏の論文を踏襲したものでしょうが、 今では、ほとんどの図鑑や植物誌、ホームページなどで採用されています。
しかし、津山氏の品種説は、私の理解力不足のためか腑に落ちませんので、もとの変種説をとった次第です。
大きさや花数は、どれだけ違うか?
津山氏が「全体が小形貧弱で花数も少ないものが多い」といいながら変種を否定して品種とした理由は、その違いが変種とするほど顕著ではない、と考えたからでしょう。ここに載せた写真のシロテンマとオニノヤガラと比較してみました。
シロテンマは、茎の高さ25cm、茎の直径2.5mm、花の数8個です。
これに対してオニノヤガラは、茎の高さおよそ80cm(正確に計測していない)、花数は約35個です。 また、日本の植物Tには、オニノヤガラは茎の高さ40〜100cmで、20〜50花をつけると記載されています。
唇弁の切れ込みの違い
オニノヤガラは唇弁の中央前部が細かく深く裂けて、紐状になていますが、 左:ヒメテンマ、右:オニノヤガラ 左:ヒメテンマ、右:オニノヤガラ シロテンマのほうは切れ込みは浅く細かい刻みがある程度です。この特徴がオニノヤガラまたはシロテンマに共通するものなのかどうかは、まだ定かではありません。 もっともっと多くの観察結果を集約して結論を出す必要がありそうです。
日本ラン科植物図譜 のオニノヤガラのページに3つの産地(秋田県、長崎県、北海道)の唇弁のイラストが載っていますが、三者三様で形が大きく異なります。 唇弁前部の切れ込みも、オニノヤガラ(写真右)に近いものもあれば、シロテンマ(写真左)に似たものもあります。 しかし残念ながら、これら3つがすべて狭義のオニノヤガラなのか、シロテンマも含まれているのかは書かれていません。
2013/8/18