和名 トサノクロムヨウラン 土佐の黒無葉蘭
タイプ標本の産地が、土佐(高知県)であることによる。 しかし、土佐では、本種の自生は極珍しい。
学名 Lecanorchis nigricans Honda var. patipetala Y.Sawa emend. Suetsugu & Fukunaga
 ... ▼ もっとみる
@ 1980年に、澤完氏(高知大学農学部助教授、故人)によって、 トサノクロムヨウラン Lecanorchis nigricans Honda var. patipetala Y.Sawa として記載された。
 しかし、この学名も和名も共に今日まで殆ど無視されてきた。 YListには、異名としても載っていない。クロムヨウランを同じものであるという立場であっても、異名として載せるべきだ。 高知県植物誌(2009)では、「クロムヨウランと区別することは難しい」と触れているのみである。
A 2018年に、Lecanorchis nigricans Honda var. patipetala Y.Sawa emend. Suetsugu & Fukunaga として校訂(emend)された。
 末次健司氏は、神戸大学特任教授で、10種ほどのクロヤツシロランを発見しているが、 多くは、ツボミヤツシロラン、ヌカヅキヤツシロランなど花筒が開かず、閉鎖花であるという。 だから、「花は咲くものだ」という固定観念を彼は打破している。 「クロムヨウランは、開花することなく結実する」という言葉に共感するものがあったろう。
 福永裕一氏は、澤完氏の最後の教え子で、花屋さんを実業としているが、 植物研究に力を入れている。とくに、恩師の命名したトサノクロムヨウランの復活に執念をもって取り組んでいた。
末次氏と福永氏の共同研究によって、埋もれていた澤説が復活した。
B では、なぜトサノクロムヨウランは、数十年もの間、無視され続けてきたのか。
 クロムヨウランは非常に神経質で、天気の良い日の早朝に開花して、10時ごろには閉じ始める(一日花)。 咲いたのを見るのは容易ではないが、根気よく通えば、必ず咲くはずだ、「花は咲くものだ」という固定観念があった。 咲かないクロムヨウランの存在を認めなかったのではないか。
 澤氏は、高知県中央部での観察で、咲かないクロムヨウランの自生地があるのに対して、 稀に、咲くクロムヨウランが自生しているという調査結果を得た。 そして、原記載に照らし合わせて、咲かない方こそが本来のクロムヨウランだと同定し、 咲く方を新変種として記載した。

分布 本州(栃木・茨城県以西)、四国、九州、琉球諸島、伊豆諸島。 ただし、本種の他、変種関係にあるクロムヨウランおよびヤクムヨウランを含む広義のクロムヨウランの分布範囲を示す。
 ... ▼ もっとみる
 全国的に見れば、トサノクロムヨウランの方が、クロムヨウランより広く分布し、優勢である。
 四国(高知県など)では、両方の種が自生するが、ほとんどがクロムヨウランであり、 トサノクロムヨウランの自生地は数か所しか見つかっていない。
 トサノクロムヨウランの命名者である澤完氏は、「高知県中部のラン科植物」の記載を見ると、
 クロムヨウランについは、土佐市、伊野町、春野町、高知市(12ヶ所)南国市、香我美町、安芸市の18ヶ所の自生地を確認している。
 これに対して、トサノクロムヨウランについては、確認できた自生地はわず高知市での2ヶ所のみである。
 これは、高知県中央部という限られた範囲での分布であるが、 四国全体に拡げたとしても同様な傾向にあると推定される(あるいは、もっとトサノクロムヨウランの比率は少ない)。
 私の経験でも、クロムヨウランの自生地は10ヶ所ほどあるに対して、トサノクロムヨウランの方は、友人に案内された3ヶ所のみであって、同じような傾向である。

生態と形態 照葉樹林の林床に生える。
「花は平開ないし半開し、クロムヨウランのように未開花のまま結実することはない」ことのほか、いくつかの相違点を記載している(澤完 1981)。
花期 8月
参考文献・サイト高知県中部のラン科植物(澤完 1981)
The taxonomic identity of three varieties of Lecanorchis nigricans(末次 2018)
本物の「クロムヨウラン」は花が咲かない(神戸大学理学研究科)


8/9〜8/15



果実(殻)をつけた昨年の茎の途中から、今年新しい茎が伸びて蕾をつけている。

花を咲かすのもあるのか!

 クロムヨウランの開花を見るのはなかなか難しい、というのは常識になっていますが、 ここ数年間の経験で私はここ土佐では「クロムヨウランは花を開かない」と達観していました。 私の友人の一人からも同じ体験を聞きましたので、いよいよ間違いないと確信していました。
 ところが、今年別の友人から「花が1つ咲いている」という電話が2・3度あって、 8月9日早朝6時過ぎ「いま3つ咲いている」との知らせ。 朝食もとらず、カメラと三脚を手に飛び出して、現地に着いたのが8時ごろでした。
友人の「少し凋み始めたようだ」との言葉に慌てて撮影を始めましたが、これが記念すべき開花クロムヨウラン第一号となりました。
▼ 続きを読む。

inserted by FC2 system