和名 ヒゲナガトンボ 髭長蜻蛉・・・ひげ(=唇弁の側裂片)が、ムカゴトンボに比べて長いことによる。
別名 ダケトンボ 嶽蜻蛉・・・産地である鹿児島県種子島嶽の田(たけのた)に因む。同種とみなして、別名とした。
学名 3つの学名が記載されている。
@ Peristylus calcaratus(Rolfe) S.Y.Hu  ・・・1973に、台湾で発表された。
A Habenaria flagellifera var. yosiei H.Hara(ヒゲナガトンボ)  ・・・1977に、宮崎県で採取の標本により記載された。
B Peristylus hatusimanus T.Hashim.(ダケトンボ)  ・・・1988に、鹿児島県で採取の標本により記載された。
 YListでは、Aは@の異名され、@に「ヒゲナガトンボ」の和名を当てている。また、 Bの命名者は、原記載の中で、AはBと同じものであるとしている。 これを総合すると、三者は同種だとしても良いではないか。 ここでは、最初に発表された@を採用し、ABはその異名とした。
分布 九州南部(宮崎県、鹿児島県種子島)、四国の一部。 ▼ 花の形態をみる。



@=背萼片
A=側萼片
B=唇弁
C=側花弁
D=距

背萼片と側花弁は、3〜4oで、頂部に集まり、兜状になって蕊柱を覆う。側花弁もほぼ同長で、斜め上に開く。
唇弁は、基部で大きく3裂し、中央裂片は約3o、舌状で下垂し、側裂片はおよそ13o、左右に長く伸びる。


外国では、ネパール、中国南部〜ヴェトナム、台湾。
生態と形態 常緑樹の林床に生える。
ムカゴトンボに似ているが、唇弁の側裂片が著しく長い。
花期 8月〜9月


2016/9/8

薄暗い、スギの植林の中に生えていた。

ひげ(唇弁の側裂片)が長いことが特徴である。

上の6枚の写真は、カーソルを置くと拡大する。

2016/8/30 2016/9/8 

 

2017/9/3
2017/9/3
2017/9/3

 

2018/9/2
2018/9/2

ムカゴトンボ と比較する。

 ムカゴトンボとを比較して、目立つ違いは、
● まず、ひげ(唇弁の側裂片)の長さである。
ムカゴトンボ(左)とヒゲナガトンボ ムカゴトンボ(左)とヒゲナガトンボ  ヒゲナガトンボは、およそ13mm前後であった。 ムカゴトンボのほうは、「長さ3〜7mm」とされているから、その差は歴然としている。
● 次に、花柄子房の花茎につく角度が違う。ムカゴトンボの花は、花茎に寄り沿うように鋭角に付くが、ヒゲナガトンボは90度に近い鈍角につく。 そのため、ムカゴトンボの花は正面に向いているが、ヒゲナガトンボの花は下向きになる傾向がある。
● また、自生地の違いがある。ムカゴトンボは、比較的明るい草地に生えるが、ヒゲナガトンボは、薄暗い常緑樹の林床の下に生える。

2016/10/6

ヒゲナガトンボの原記載(原 1977)

 1977年に発表された、ムカゴトンボの変種として、原記載には、次のように書かれている。

ヒゲナガトンボ(新変種)
Habenaria flagellifera Makino var. Yosiei Hara, var. nov.

ムカゴトンボに最も近いが、乾いた時暗褐色なり,、 唇弁の側裂片は左右に鞭状にのびて長さ10-12mmなり、 萼片は長さ3mm余り、 距は長さ4mm内外で下部はハチの胴のように細まっている。 この仲間では唇弁の形、特に側裂片の長さが著しく変化することが知られているので、 ムカゴトンボの一変種とみなしておく。 しかし、唇弁の側片が長いものはまだ記載されていない。 この類は採取された個体数が少ないので、異変の幅をつかむことが難しい。
植物研究雑誌 第52巻 第9号 1977年 より抜粋

2016/10/6

ダケトンボの原記載(橋本 1988)

 ダケトンボ Peristylus hatusimanus T.Hashim. の原記載には、ダケトンボとムカゴトンボとの相違点が11項目にわたって書かれている。 ダケトンボの特徴(太字、赤下線)とムカゴトンボの特徴(赤字)とを対比して、下記に纏めた。

@ 下草がほとんど無い常緑林(種子島の場合はスギ林)の下に生える。 (湿った陽地(草地)に生える。)
A 押葉標本にすると 植物体は暗褐色になる(黒変する)
B 普通葉は花茎を含めた茎の、中程よりやや下方に、(明らかに下方に、)やや疎らに集まる。
C 普通葉の葉身は狭楕円形、頂葉を除き常に鋭頭(卵状披針形、鋭尖頭)
D 花序の下にある花の着かない苞葉は(1-)2(-3)枚((2〜3)4〜5枚)
E 苞葉は三角状披針形(三角状広披針形)
F 花序を含めて、花はFAA液浸にすると褐色不透明(白色透明)になる。
G 側花弁は歪んだ菱形、先はほぼ切形(歪んだ卵形、鈍頭)、下方に位置する縁の中程より下が急に広がり、広がった部分の先はときに鈍く2裂
H 唇弁の側裂片は長さ(8-)12〜21mm、2脈(3〜7mm、1脈)
I 唇弁の距の先は鈍形(押葉標本では凹んだものもあった)(切形または浅く2裂)
J 仮雄蕊がはっきり盛り上がる(不明瞭である)

筑波実験植物報 7:159-166, 1988. ラン科植物分類雑記(3) 橋本保 より


  なお、この原記載の中で、ダケトンボとヒゲナガトンボとは、「同じかと思われる」と書かれている。

2016/10/6

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