和名 クロヤツシロラン 黒八代蘭
  アキザキヤツシロランと対比して、花や果実が黒ずんだ色をしていることを意味するのでなかろうか。
学名 Gastrodia pubilabiata Y.Sawa
分布 本州(東海地方以西)、四国、九州、伊豆諸島。外国では台湾、朝鮮半島済州島。
生態・形態 暖温帯の、常緑広葉樹や竹、杉などの林床に生える。竹林ではアキザキヤツシロランと混生することがある。菌寄生植物で葉緑素をまったく持たない。
花期の茎は高さ2cmほどで、頂部に1〜8個の花が集まって付く。地表すれすれに、ロゼット状に四方八方に向かって開く。
花は黒褐色で、萼片と側花弁が合着するが、先で別れて平開に近くなる。
受粉すると、花柄が急速に伸びて、高いものは40cmほどにもなる。 花が赤褐色のものが、品種ベンガラヤツシロランと記載された。 ▼ 花の形態をみる。



@=背萼片
A=側萼片
B=唇弁
C=側花弁
D=蕊柱

萼片(約10o)は、基部が完全に癒着していて、中ほどで3裂して、背萼片と側萼片となる。
側花弁(約4o)も萼の中ほどから派生する。
左は、萼の展開図。


花期 9〜10月
参考文献・サイト
高知県中部のラン科植物(1981 この中で新種記載がされた。)
四国におけるハルザキヤツシロラン,アキザキヤツシロラン
及びクロヤツシロランの分布

愛媛県新産クロヤツシロランについて


2007/9/24

ほぼ真ん中に、クロヤツシロランが花を咲かせている。が、落ち葉と色が同じ保護色で、お花というよりは、地味なキノコに近い。 上から見た大きさも、樫の木の葉っぱ1枚ほどだから、見つけるのは大変。

近づいて見ると、6つの花が、落ち葉の中に埋もれるように、ロゼット状に拡がっている。

花の正面から写真を撮るには、カメラを地面に据えなければならない。開き具合は、ハルザキヤツシロランやアキザキヤツシロランと比べると、良く開く方である。唇弁に毛が生えているのが、特徴の1つである。

2007/9/28

花は、1つだけ残して、終わっている。満開の時(9/24)から、4日しか経っていないのに。

2007/10/1

花は「萎む」というのではなく、花被の部分が腐って溶ける、と言った方が当たっている。

2007/10/8

花被は溶けて、消えているが、子房は膨らみ、花柄が伸び始めている。

2007/10/14

果実は、5個。6つの花の内、5つも結実している。花柄がさらに伸びる。

2007/10/23

花柄あるいは果柄は、白っぽく、ストローのようで、中には、液体が詰まっている。その養分で、果柄が伸びるのではないだろうか。

2007/10/27

前回(10/23)訪問した後、大風が吹いたので、倒れたのだろう。しかし、その場から真っ直ぐに上に伸びて、果実を少しでも高くしようとしている。
今は果実が裂けて、タネを飛ばしている。最初の満開の時(9/24)から、33日経っている。この時点では、果柄の中の養分は使い果たして、ストローのように空洞になっている。


2007/9/26

やっと地上に姿を現したところ。いわゆる腐生植物であるから、花を咲かす時期にしか、地上に出てこない。
そして、花が結実して、タネを蒔き終わると、地表から姿を消す。。


クロヤツシロランの暮らしを見る

最初から 全部見る 花の季節を見る 果実の季節を見る
 クロヤツシロランの学名は、Gastrodia pubilabiata Sawaです。
1981年に、澤完氏(高知大学)により新種として発表されました。 それまでは、アキザキヤツシロランと区別されていなかったようです。
 1991年発行の「野生ラン」には、「神奈川県と高知県のスギとモウソウチクの混生林下に生えているのが確かめられている」と書かれていますが、 今は、九州、四国、本州のいくつもの県で自生が確認され、その分布域はアキザキヤツシロランを超えているようです。
 私が見つけた場所は広葉樹が主体で、スギやタケは一本も生えていません。 昨年の秋、サイハイランが果実をつけている様子を撮影しようと訪れたとき、50cm近くにも伸びた果実を数十本も見つけました。 今年の8月下旬から、花が地上に現れるのを心待ちにして、何回も足を運んでいました。 そして、今日はじめて花を発見。

2006/9/15

タネを遠くへ飛ばす戦略

8個の花が落ち葉にくっつくほど背丈は低い。 8個の花が落ち葉にくっつくほど背丈は低い。  風にタネを広く遠く運んでもらうのには、セッコクやフウランなどのように高い木に着生している方が断然有利です。
 クロヤツシロランといえば地面に生えて、その花が落葉に触れるほど背が低いのです。 これでは、タネは株の周りの狭い範囲にしか撒かれません。

 ところが実を結ぶととたんに、花柄の部分が伸び始めます。 写真右は30日後の同じ株ですが、5個が結実しています。茶色のラグビーボールみたいなのが果実で、白っぽい棒は花柄だった部分です。 地面から果実天辺まではおよそ16cm あります。 しかし、まだまだ伸びます。タネを飛ばすころには30cmぐらいにはなるでしょう。 私が測ったもので、もっとも高いものは50cmを超えていました。 5個結実して、急速に果柄(=花柄)が伸びはじめる。 5個結実して、急速に果柄(=花柄)が伸びはじめる。

 棒状の果柄(=花柄)には液体が詰まっていますが、伸びるにしたがって液体がなくなり、最後にはストローのように空っぽになります。 おそらく急速に伸ばすエネルギーに費やしているのでしょう。

 同じ属のオニノヤガラは、花の時から背丈を高く伸ばしていますが、クロヤツシロランは実を結んだものだけを高く持ち上げる戦略ですから、無駄なエネルギーを費やさずに済むエコタイプです。

2009/ 1/ 9

アキザキヤツシロランとの見分け方

 クロヤツシロランとアキザキヤツシロランは花の咲く時期は同じです。 アキザキヤツシロランは竹林以外ではあまり見られませんが、クロヤツシロランの自生地は常緑広葉樹林、杉林などのほか竹林にも生えて、 左はクロヤツシロラン
右はアキザキヤツシロラン
左はクロヤツシロラン、右はアキザキヤツシロラン
アキザキヤツシロランと隣り合わせに花を咲かせていることもあります。そのせいか、1980年に新種としてクロヤツシロランが発表されるまでは、両者は同じ種として扱われていました。
 しかし、咲いた花を見れば私たちにも簡単に見分けができます。
 @ まづ、クロヤツシロランはほとんど平開に近い状態になるが、アキザキヤツシロランは筒状のままで平開しない。
 A つぎに色は、クロヤツシロランは赤みがあり、アキザキヤツシロランには緑が入っているように見る。
 B 決め手は、クロヤツシロランの唇弁には毛があり、肉眼でもよくよく見ればわかる。アキザキヤツシロランにはこの毛はない。

左はクロヤツシロラン
右はアキザキヤツシロラン
左はクロヤツシロラン、右はアキザキヤツシロラン
 ヤツシロラン類はすべて背が低く、花の色も地味ですから、地表の色に溶け込んで、見つけるのは大変です。 ところが、結実すると花柄がぐんぐん伸びてる。40cmを超す高さになることもあります。このころなら比較的容易に見つけることができます。
 見つかったが、さて、アキザキヤツシロラン? クロヤツシロラン? ということになりますが・・・

果実期の見分け方

 果実を付けている時期の両者の違いは、第一に果実の色です。
 クロヤツシロランの名前は、アキザキヤツシロランに対比して黒っぽく見えることから付いたものでしょうが、 赤黒い、あるいは栗色といった方がより当たっているようです。
 アキザキヤツシロランの方はこれに比べると白っぽく、鼠色に近いように見えます。
 次の違いは花茎の部分です。クロヤツシロランは花柄の出る箇所の間隔が狭いのですが、 アキザキヤツシロランの方はこの間隔が広くなっています。この特徴は開花期からあるものですが、果実期にも残っています。 しかし、これには個体差があり、あいまいなところもありますから、決め手にはならないように思います。

 なお、四国ではこのほかにハルザキヤツシロランがありますが、これは春咲きです。6月にもなればすべて地上から姿を消していますから、混同することはありません。

2010/10/25

花の中にショウジョウバエがいた!

 花の正面にカメラを置いて、ファインダーを覗いたら、小さなハエ(おそらくショウジョウバエ)がいました。蚊に刺されながら、16分も粘って撮影しました。
 最後には、蟻がやってきて、ショウジョウバエに襲いかかり、撮影をやめました。
 この間、ショウジョウバエは花の中を動きまわっていましたが、その行動の目的は、はっきりしませんでした。
 この小さなハエが、クロヤツシロランの花粉塊を背中につけて、運んでいるのは確かなことのようです。

2012/12/9

ショウジョウバエは何しにくるの?

先に、クロヤツシロランの花の中で、ショウジョウバエが動き回っている様子を紹介しましたが、 ショウジョウバエは何しに来たのでしょう?
唇弁と側萼片の上に載っているのはハエの卵。ハエが背負っているのは花粉塊。 唇弁と側萼片の上に載っているのはハエの卵。ハエが背負っているのは花粉塊。  ショウジョウバエが背負っている白いものは、クロヤツシロランの花粉塊であることは確かです。 ショウジョウバエがクロヤツシロランの受粉を助けるポリネーターであることは定説になっています。 サイト「花と自然」一ページには、花粉塊を背負ったショウジョウバエがクロヤツシロランの花に飛んできて、 柱頭にその花粉塊をくっつけていくまでの過程が連続撮影で良く分かります。

 が、クロヤツシロランの花に飛んでくるショウジョウバエのほうの目的は何でしょうか?
 2つの、小さな白い楕円体が見えます。一つは唇弁の上に、もう一つは右側の側萼片の上にのっかっています。これは卵のようです。
 ショウジョウバエは、花の中に卵を産み付ける目的でやってきたのだと推測できそうだと思います。
 クロヤツシロランの花の終わりは、花冠の部分が腐ってドロドロに溶けるようになります。 卵から孵った蛆虫が、これを餌にして大きくなることができれば、ショウジョウバエは親としての目的を達成できたことになります。
 いつかショウジョウバエの蛆虫を見つけて、証拠写真を撮ってやろうと思っています。

2013/10/14

花柄が伸びる、花茎ではない

 クロヤツシロランの花は、地べたに張り付くようにロゼット状に咲いています。 撮影:@9月26日、A10月5日、B10月13日、C10月17日、D10月23日 撮影:@9月26日、A10月5日、B10月13日、C10月17日、D10月23日 しかも茶色で落ち葉の色に溶け込んでいて、まったく目立ちません。(写真@)
 おそらくポリネータ(送粉者)は、花の色ではなく、臭いに惹きつけられて花を訪れているのでしょう。(ショウジョウバエなど)
 受粉がうまくいって受精すると、花柄が急速に伸び始めます(写真A〜5)。なお、花被は溶けるようになくなります。
 伸びるのは花柄であって、花茎ではありません。花茎の長さは、花期も果実期も変わりありません。
 花柄の長さは、50p近くにもなりますから、その先端の果実(子房であった部分)もそれだけ高くなります。 これは、種子を風にのせて少しでも遠くへ飛ばすための、クロヤツシロランの戦術でしょう。
 この戦術は ハルザキヤツシロランアキザキヤツシロランなどにも共通しています。
 同じ属でも オニノヤガラ は違います。こちらは、花数が20〜50個と多く、花茎は1mにもなります。 果実期にも花柄がのびることはありません。

2013/10/17

伸びるのは花柄の先端部

 クロヤツシロランの果実が高くなるのは、花柄が伸びるからですが、伸びるのはその先端部です。それを証明したのが、左上の写真です。
撮影日:左から10/28、11/8、11/13 撮影日:左から10/28、11/8、11/13  まず(10月28日)、花柄がまだ伸びきっていない株を選んで、その花柄に等間隔に赤い印をつけました。
 その後、11月8日と11月13日に、同じ株の写真を撮りました。3つの写真を左から撮影順に並べて、赤マークを白線で結びました。
 中央から下の白線は水平ですが、上の方ほど右上がりの勾配が急になっています。
 花柄は、ゴム紐が引き伸ばされるように均等に伸びるのではなく、先端に近い部分で伸びていることが解ります。  
台風で倒れたところから伸び始める。台風で倒れたところから伸び始める。
 下の写真(上の写真とは別の株)は、台風で根こそぎ倒れた株を撮ったものです。
 倒れた4本の花柄がそろって直角に曲がり、上に伸びています。
花柄が倒れた時点で、その先端部が上に向かって伸び始めた結果がこのような姿になったのです。

2013/10/17

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